
株式会社椿本チエイン
上席執行役員 アグリビジネス担当 兼 福井美浜工場長(2026年3月末時点)
熊倉 淳 様
アグリビジネス部 機器技術課 施工管理担当副参事(2026年3月末時点)
矢野 貴士 様
柱があったら実現できなかった
無柱巨大空間の植物工場 完成
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Introduction
椿本チエインについて
1917年創業。大阪市に本社を置く機械メーカー。産業用チェーンや自動車エンジン用タイミングチェーンで世界トップクラスのシェアを誇る。 機械部品から搬送システムまで「動かす」分野で、幅広い産業の基盤を支えている。売上高約3,000億円規模のグローバル企業。 新ビジネスの1つとしてアグリビジネスに参入し、自社工場でのレタス栽培・出荷にも取り組んでいる。



feature article
お施主様の声
“動かす技術”で農業へ—なぜ今、参入したのか
ジェットコースターや回転寿司、エスカレーターなど、私たちの身近な場所で使われている“チェーン”。その分野で国内トップクラスのシェアを誇る「椿本チエイン」が、新たにアグリビジネスへと乗り出しました。
背景にあるのは、気候変動や就農人口の減少、価格不安定といった農業を取り巻く構造的課題です。
同社は、動力伝動や搬送といった自社のコア技術を「動かす技術」と捉え、その延長線上に植物工場を位置づけました。自動化設備提供にとどまらず、自社で運営することで現場の課題を抽出し、解決策を機器開発へとつなげていく
――製造業だからこそできるアプローチで、持続可能な農業の実現を目指しています。
福井美浜工場で、熊倉工場長と矢野副参事にお話を伺います。

写真左:矢野副参事 写真右:熊倉工場長
“人に依存しない農業”を実現する植物工場
福井県南西部、日本海に面した美浜町。冬は、積雪も多いこの地域に、椿本チエインの植物工場があります。ここで生産するのは、レタス。日産約2.2トンと、県内最大規模の生産能力を背景に、福井県のレタス供給量を一気に押し上げる存在となっています。
工場内では、種まきから収穫直前までがほぼ自動化されており、LED照明、空調、CO₂濃度の管理によって栽培環境は常に最適に制御されています。約40日かけて出荷サイズまで育ったレタスは、最後、人の手で丁寧に箱詰めされ、消費者のもとへと届けられます。
出荷直前まで人の手を介さないことで、衛生面と品質の安定を両立。日産規模に対して運営に関わる人数は最小限に抑えられており、人手不足が深刻化する農業分野において「人に依存しない仕組み」を実現した点は大きな特徴です。

設備から逆算の建築プロジェクト
この植物工場は、約8,500㎡の敷地に、建物幅36m・高さ約16mという大空間で構成されています。日産約2.2トン規模のレタス生産設備を実現するためには、自動化棚やリフターが干渉しない無柱空間が不可欠であり、「yess建築」が採用されました。
「通常は、建物完成後に設備を入れるが、今回は同時進行だった」と、建築担当の矢野様は振り返ります。建築と設備裾付けを同時進行で進め、土間打設や機械基礎を前倒ししたことで、工期は約3分の2に短縮されました。
また、搬入や動線はミリ単位で設計されました。熊倉工場長は「柱があったら、この設備は成立しなかった」と語ります。約36mスパンを支える巨大な梁は人の背丈ほどもあり、橋梁技術を応用した構造で実現されています。
「在来工法では難しい規模」と語るその空間は、設備ありきで最適化されたからこそ成立したものです。

課題ごと引き受け、次の産業モデルへ
植物工場は電力コストや輸送費の影響を大きく受ける事業でもあります。熊倉工場長は「だからこそ、すべてを自動化するのではなく、費用対効果を見極めた最適な自動化が重要」と語ります。
自社工場を“実験場”とし、運用データを蓄積しながら改善を重ね、その知見を機器開発や外部提供へとつなげていく考えです。
「設備提供という枠組みでは、お客様からのフィードバックに基づく改善に留まる。一方で、自らが運営主体として現場に入り、課題の当事者となることで、現場起点の本質課題に直接向き合うことができる。
その経験の蓄積が、ソリューションの高度化と提供価値の進化につながると考えています」と熱を込めて語ります。
今後は、福井という立地の政策支援も活用しながら、モデル工場としての完成度をさらに高めていく計画です。将来的には国内外への展開も視野に入れており、食料生産の新たなスタンダードの構築が期待されます。

編集後記
「つくる」だけでなく、「動かす」ことで価値を生み出してきた企業が、農業という分野に挑戦する。その必然性を、現場で強く感じました。 巨大な空間の中で、静かに動き続けるレタスの生産ラインは、まさに次世代のインフラ。社会課題に対して技術で応えていく、その覚悟が伝わる取材でした。